Reportイベントレポート

2022年03月31日
循環型社会に向けた取組み 自然との共生を学ぶ

令和元年度地球温暖化防止講演会「アマモ場とブルーカーボン 海辺が持つはたらきを知る」

令和元年度地球温暖化防止講演会として「アマモ場とブルーカーボン 海辺が持つはたらきを知る」を開催しました。

第一部では「大阪湾のアマモ場とそこに暮らす生きものたち」として協会職員の和田太一が講演しました。

海草アマモが群生するアマモ場は瀬戸内海の原風景とも呼べる環境で、高度経済成長期に浅海域の埋立てや水質汚濁などによって大きく減少しました。大阪湾では昔は各地に見られたようですが、埋立てが進んだ時代に一時消息不明となり、2000年代に入ってまた再び自生が見られるようになりました。

アマモ場にはたくさんの生き物たちが暮らしています。アマモの葉にそっくりなヨウジウオやモエビの仲間、世界最小のイカ「ヒメイカ」、アマモの葉に付くモロハタマキビや小さな生き物たち、アマモの周りの海底で暮らす小さな貝やカニ、アマモの地下茎に穴を開けて棲む二枚貝の珍種ネムグリガイなど、ユニークな姿やフシギな暮らしなどアマモ場の生き物たちの世界を紹介しました。

アマモ場は水質浄化や地形の安定化、有用水産生物をはじめ多くの生きものを育む場、赤潮や貝毒原因プランクトンの抑制、環境学習やレクリエーションの場、気候変動の緩和(ブルーカーボン)など様々なはたらき(機能)を持っている事を紹介しました。

第2部では国立研究開発法人海上・港湾・空港技術研究所 港湾空港技術研究所 沿岸環境研究グループ長の桑江朝比呂さんに「ブルーカーボンってなあに?」としてご講演いただきました。

現在の日本の社会の課題として、社会資本の老朽化と更新の必要性、気候変動の影響拡大、公共財政難が切迫しており、その中で桑江さんは港湾でのグレーインフラ(人工)とグリーンインフラ(自然)の境界を開く技術の研究に取り組んでこられました。

港湾は船が着けられて荷役ができることが一番の目的ですが、台風などの災害から守る、自然を使って地球温暖化の対策をする、海の自然の恵みをいただくなど様々な便益の上乗せをすることもできます。生物共生型護岸、人工干潟の造成、サンゴ礁や藻場・マングローブなどを利用した防災・減災など国内外の研究や事例についてご紹介いただきました。

ブルーカーボンとは大気中の二酸化炭素が海に吸収され、海底泥や深海、水中植物に貯蔵された炭素のことです。陸上では木や草などの植物が空気中の二酸化炭素を吸収し、吸収された炭素は植物体に貯蔵されますが、海では大気中の二酸化炭素が海底の泥の中に貯蔵されます。海底の泥の中は酸素がほとんど無くて有機物がなかなか分解されないため、数千年レベルで炭素が保存されることから面積当りの貯蔵能力がとても高いのです。

ブルーカーボンの調べ方は、海水を汲んで大気中の二酸化炭素の濃度と海水中の濃度のどちらが高いかを調べるという単純なものです。物質は濃度が濃いところから薄いところへ移動する性質があるので、海水中の濃度が低ければ空気中の二酸化炭素が海水中へ移動していること(吸収源)になります。

淀川の河口など河口域では河川から多くの有機物が流れ込むこともあり、炭素の放出量が多くなっている(排出源)ことが多いのですが、少し沖へ出ると植物プランクトンなどの働きで吸収が上回ることが多いことがわかっています。全体で見ると、大阪湾や東京湾は年間を通じて実は二酸化炭素の吸収源になっているという興味深いお話がありました。

ブルーカーボンは2009年にできた言葉で、一般にはまだあまり知られていませんが、国内外で研究が年々進んでいます。単位面積当たりの吸収量ではマングローブが吸収源として高いのですが、地球全体で見ると海藻藻場が面積が最も多いのでマングローブを上回るともいわれています。

海藻は岩場に生えるので生えている場所の海底にはあまり堆積せず貯蔵できませんが、流れ藻として沖合へ流れて行くものが相当あり、沖合の深い海へ落ちていくとそのまま何千年も表層へは上がってこないことから、そうしたメカニズムによる炭素貯蔵の研究が進められています。

講演会当日はちょうどCOP25がスペインで開催されていました。COP25は「BLUE COP」 とも呼ばれ、海洋に初めて着目した会議となっています。パリ協定での各国の削減目標の強化が大きな議題となりましたが、パリ協定のNDC(自国が決定する貢献案)にブルーカーボンや浅海域生態系の活用について言及している国の割合は20%程度で、日本もまだ言及していません。四方を海に囲まれている国ですのでこれを使わない手はありません。ブルーカーボンの研究や活用に取り組む研究者や行政・企業などによるブルーカーボン研究会が開かれており、今後ブルーカーボンを吸収源として活用していく方向で検討が進められています。
そして横浜市で認証されている横浜ブルーカーボン・オフセット制度の紹介がありました。横浜で開催されるスポーツイベントや事業活動に伴い排出されたCO2と、地元産のワカメの地産地消や海水ヒートポンプなどの導入によって削減されたCO2をクレジットとして取引してオフセット(相殺・埋め合わせ)するという取組みです。その他国内の企業もリサイクル剤を活用した藻場の造成など海辺の生態系の再生や創造に関する事業への取組みが活発になっていることも紹介されました。

四方を海に囲まれている日本にとって、ブルーカーボンは海辺が持つ重要なはたらきの一つであるといえます。近年大型台風などの自然災害なども頻発していますが、アマモ場をはじめ海辺の生態系は様々なはたらきを持ち、私たち人間にも多くの恵みを与えてくれています。グレーインフラとグリーンインフラを上手く活用した海辺の自然環境の保全・再生の取組みと合わせてブルーカーボンのさらなる研究や理解が進み、もっと活用されていくべきものであると感じた講演会になりました。大阪ではまだまだ認知度が低いですが、今後の取組みにも期待していきたいです。

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