Reportイベントレポート

2022年03月30日
循環型社会に向けた取組み 自然との共生を学ぶ

令和3年度環境問題講演会「森はすごい!生物多様性の力で災害から暮らしを守る」

近年、地震や台風、豪雨などにより水害や土砂災害などが頻発しています。そうした自然災害に対して、森林の生態系が持つ力を活用した防災・減災(グリーンインフラ)の調査研究が進められています。
今回はグリーンインフラの研究をされている土井裕介先生に、大阪府の森林の現状とグリーンインフラについて、そしてこれからの大阪の森づくりについて、Zoomウェビナーを使用したオンラインでご講演いただきました。

講演会の動画はこちらからご覧いただけます。
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講演資料はこちらからPDFでダウンロードいただけます。
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220207森はすごい講演資料

土井先生のご講演内容を紹介します。

【大阪府の森林の現状】
大阪府の山林は、戦後復興の建築資材など大量の木材需要により、一時ははげ山のような状態だったそうですが、その後の先人たちが行った植林によって現在の森林が出来ました。
現在は山に一面森林が広がっているように見えますが、実際に森林に入ってみると、手入れ(間伐)がなされていない人工林では昼間でも林内は薄暗く、木がやせ細り、下草も少ない状態となっています。雨が降ると地面の浸食が進み、倒れた木が土石流の原因になってしまいます。
天然の広葉樹林でも近年カシノナガキクイムシによるナラ枯れが起こるなどの問題が起きており、せっかく森林が増えても、生物多様性や地球温暖化の緩和、土砂災害防止やレクリエーションなど森林が持つ多面的な機能が十分に発揮されていない状態なのだそうです。

【グリーンインフラとは】
日本は世界で4番目に災害リスクが高い国だそうです。近年の豪雨や土砂災害の発生件数の増加、高齢化と低未利用地の増加、インフラの老朽化と維持管理・更新コストの増大といった社会的課題があり、そのような中で従来のグレーインフラ(コンクリートの構造物など)だけではなく、健全な森林があることで土石流の発生時にも脆弱性を低減させるなどといったグリーンインフラ(自然が持つ多様な機能を活用する)という考え方が出てきました。
ただしグリーンインフラだけでは防災機能を確実に発揮するには限界もあります。単一機能の発揮や環境負荷の回避、雇用の創出などグレーインフラとグリーンインフラにはそれぞれ利点があって、それは対立するものではなく、土地の特性に応じて使い分けや組み合わせる必要があることをご紹介いただきました。

【生物多様性とは】
生物多様性とは「様々な個性を持つたくさんの生物が、他の生物や環境とつながりながら存在すること」を言います。
ブナ林や雑木林など様々な環境がある「生態系の多様性」、たくさんの種類の生物がいる「種の多様性」、同じ種でも色や特性など個体ごとに遺伝子が異なる「遺伝子の多様性」の3つの階層があります。
生物多様性を脅かす4つの危機、「開発など人間活動による危機」、「自然に対する働きかけの縮小による危機」、「外来生物による影響」、「地球環境の変化による危機」についても、太陽光パネルの設置による森林開発や人間活動により維持されてきた草山など今回のテーマにも関連する具体的な事例からご紹介いただきました。
生物多様性を保つことで私たちは様々な恵みを得ることができるということが理解できました。
土井先生からご紹介のあった「大阪の自然情報」ブログはこちら

【緑のダムの実験】
森林が持つ保水能力(緑のダム機能)について、調査区の森林で2Lペットボトルの水を雨に見立て、高さ2mから3回散水し、その下側で流れてきた表面流をちり取りで集め流量を測ることで、降った雨がどのぐらい地面に浸透するか、もしくは浸透せずに表面を流れ出していく(表面流)か調べる実験をご紹介いただきました。
人工林のヒノキ林・スギ林では、無間伐区は上から降ってきた雨が地面を叩き、水が浸透していかずに表面流が発生している状況が見られましたが、間伐後5年目ではシダなどの植物やコケが生え、落ち葉も堆積して、降ってきた雨を吸収して表面流は発生しなかったといったような、森林のタイプや間伐の有無による違いを実験の動画で見せていただました。
間伐などをすることが森のダム機能を高め災害を減らすことにもつながるということが理解できました。
この実験は中学校の授業などでも活用されているそうです。

【これからの大阪の森づくりについて】
大阪府では市街地と山地が近接している場所で流木災害などが起きており、緊急かつ集中的に対策を行うことが急務で、大阪府内全域で森林環境税を活用した流木対策事業を行っています。
渓流沿いの倒れそうな木の撤去や流路付近の森林の間伐などを行うことでグリーンインフラとしての機能を高めるとともに、万が一土石流が発生した場合の治山ダムを設置するなど、グリーンインフラとグレーインフラを組み合わせたハイブリットインフラを行うことで流木災害のリスクを低減させることができるそうです。
実際に木の伐採などをした処理区と、処理をしていない対象区で倒木の本数や移動などを調べた調査結果から、適切な手入れ(処理)を行うことで流木の発生抑止効果があること、強度間伐することで下草が繁茂し表面流が減少し土砂の移動量も減少することなどが調査結果からわかってきたそうです。

【強度間伐とニホンジカの出現頻度】
自動撮影カメラによる調査で、ニホンジカ生息地では無間伐区よりも間伐区の方が出現頻度は増加傾向という結果が出ており、間伐後に繁茂した下草を求めてシカがやってくるのではないかと考えられるそうです。
また、調査によってニホンジカの非生息地とされていた地域でも出現が確認されており、実際にシカが映ったカメラの映像も見せていただきました。

【風倒木跡地の森林再生】
間伐をすると木が倒れにくくなるのか、山で実際に木をワイヤーロープで引っ張って倒れにくさを調べたところ、胸高直径(木の太さ)が大きくなると引き倒しの抵抗力も増加すること、間伐をすることによって明るくなって光合成がたくさんできて根っこも太くなり倒れにくくなることをご紹介いただきました。
風倒木跡地では、植林した苗木でシカによる食害が起きており、その対策でツリーシェルターが設置されています。紫外線による劣化やシカによるアタックのためかシェルターがボロボロになってしまうものもあるそうで、現在最適な資材や樹種などを研究中だそうです。

今回のご講演では「災害に強い森林」とはどういう森林か、グリーンインフラ研究の最前線の調査結果からご紹介いただきました。
間伐など適切な森林管理を行う重要性を理解するとともに、私たちに身近な大阪府の森林で、日々研究者たちによってユニークな調査研究が行われていることも知る機会になりました。
「防災」は人命に関わる重要な課題ですが、従来のグレーインフラだけでは生態系など自然環境への負荷も多くなってしまいます。今回の土井先生のご講演では間伐とそれに伴う森林の動植物との関係性にも触れられており、グリーンインフラとグレーインフラを土地の特性に合わせて組み合わせていくことが「防災」と「生物多様性」をうまく両立していく道筋となっていくように感じました。
グリーンインフラ研究と今後の大阪の森づくりに注目していきたいですね。

【質問と回答】
講演会当日に参加者の皆さんからたくさんのご質問をいただきました。
時間の都合上お答えすることができなかった質問も含め、講師の土井先生から質問に対する回答をいただきました。
下記のリンクからPDFファイルをダウンロードしてご覧いただけます。
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講演に対する質問と講師からの回答一覧

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